ニートマスター ジョー 11
『満開の桜の下で』
1 表紙
2
1・2 夜 店外
3・4・5・6 店内 カウンター内にジョー、
小藪はいつものカウンター奥の席
ジョ「今年も桜の季節は過ぎて・・・・」
小「新緑の季節だねえ」
7・8 小「それも束の間、またじんわり暑くなって
ジメジメの梅雨になり、その後はまた鬱陶しい夏だ」
ジョ「またボツさんがぼやきますね」
ボ「ちわ〜す」
3
1・2 ボ「あ〜あ、梅雨前だってのに汗だくですよ。
やっぱり欠陥品だネ、地球は。
またスノーボール頼んます」
小「すでにぼやいていたか」
3 ボ「? なんすか?」
小「いや、なんでもねえよ」
4 小「桜といえば、チェリー・ブロッサム
というカクテルがあったよな。大正時代に
横浜の有名なバーのオーナーが考えたそうだが」
5・6 小「桜で思いついたらしいんだが、
桜といえば白か桃色だよな。
白が染井吉野で桃色は八重桜か。
何種類かあるらしいがね」
ボ「まあ、白とピンクの濃淡しか思いつかないね」
7 小「ところがあのカクテルは、誰が作っても赤だ
・・・・いや、もっと赤黒い、固まりかけの血のような・・・・」
ボ「イヤな例えだネ」
8 ジョー、ボツにスノーボール出して、
ジョ「ワインレッドですかね」
小「うん、桜の実が赤いとしても
それを連想する日本人はまずいないだろう。
やっぱりさくらんぼのチェリーだよな」
4
1 ジョー、カクテルブックを見て、
ジョ「でも日本の桜が定説みたいですね」
小「権威が一旦決めると変えられないってのは
ありがちだわな」
2 小「マティーニ1つでも膨大なオリジナルが
あるってぇし、本当に日本の桜を模したものが
あってもいいと思うんだがねえ」
ジョ「お作りしましょうか」
3・4 ジョ「当店オリジナルの
チェリー・ブロッサム。白とピンクの二種類です」
5・6 ボ「おー、こっちの方がいいネ」
ジョ「最近は桜リキュールもあるから便利ですよ」
7 小「淡い桃色や白が日本の桜の魅力だよな」
ボ「じゃあこの二つをこの店の
チェリー・ブロッサムてことにしたら?」
ジョ「では、新作追加ということで」
8 ボ「あ、桜といえば、
こないだ久々に勤労青年を見かけたな」
5
1 ボ「桜が咲いていたから四月上旬かな、
夜歩いてたら彼女らしき人と一緒で」
回想 青年と彼女が歩いてくる
2 ボ「話に夢中でこっちに気づかないまま
通り過ぎてったよ」
ジョ「そういえば彼、最近来てないですね」
3・4 小「だいぶぼやていたから、
また職探しでもしてんのかな」
ボ「彼女持ちなら余裕でしょう。
もっと苦労すればいいのに」
ジョ「ボツさんは彼女持ちには鬼になりますね」
5・6 青「こんばんは〜」
ボ「お、噂の青年来た」
7・8 ジョ「いらっしゃいませ。久々ですね」
青「しばらく田舎帰ってました。
あ、ジンフィズお願いします」
ボツの右隣着席
6
1 ボ「ん? 職探しじゃなかったの?」
青「まあ、それもありますけどね」
2 ボ「それにしても、君に彼女がいたとはなあ」
青「え? なんで?」
3 ボ「いいよ、気ぃ遣わなくても。
ここの三人は生涯見込みないけど、内心はともかく
他人を祝福する余裕はあるよ」
青「? どういうことですか?」
4 青「俺、彼女なんていませんよ。
いたことないし」
ボ「は? だってこないだの夜、
一緒んとこを見たよ」
5 ボ「四月上旬だったかな、桜が咲いてる頃だよ、
図書館前を歩いてたでしょ?」
青「ん〜・・・・?」
6 ボ「別に隠さなくてもいいじゃんか。
あ、同伴なんとかとか、そういうのかな?」
青「いえ、3月下旬から4月上旬は
田舎帰ってたんですよ。人違いじゃないですか」
7 ボ「そんなはずねえって、
ねえちゃんと一緒だったろ」
青「あ〜・・・・たしかにそうだけど・・・・」
8 ボ「ほら〜、なんだよ、もったいぶるなよ」
青「いや、ねえちゃんてのは、
ほんとにねえちゃんですよ。姉貴」
7
1 青「田舎帰ってたときに満開の桜んとこを
姉貴と歩いたのはたしかだけど、
こっちではないですよ」
ボ「するってーと何かい? ボクの勘違い?」
2 小「すごいなあ。ボツは透視できるのか、
でまかせこいてるのか、どっちかだな」
ボ「ちょっと心外だなあ、
ボクは正直で人の機嫌を損ねることは
あっても嘘は言わないよ! できるだけ」 ぶぶー
3 ボ「まあわかった、ボクが目撃したのは
青年と姉貴だったわけだな。うん、納得しよう。
しかし場所と時期が合ってないな」
青「でもこっちでは
桜はとっくに散ってましたよ」
4 ボ「青年よ、それはボクの記憶違いと
強調することになるぞ」
青「ボツさんに話合わせたら、
俺が嘘をついたことになっちゃうでしょ」
5 ボ「つまり、姉貴と一緒だったのは田舎にいた
ときで、こっちではないんだな?
他の誰ともないんだな?」
青「・・・・あ〜、そうか」
6 ボ「なになになに、他にいたのか?
隠さず言ってくれよ。ボクの名誉もかかってんのよ」
青「こっちで見たってことは、
やっぱり姉貴だな・・・・」
7 ボ「んん? 田舎じゃなかったの?」イラッ
青「違うんですよ、帰ってしばらくして、
姉貴が友達とコンサート観に来るってんで、
姉貴だけうちに寄ったんですよ」
8 青「一緒に近所歩いたから、
そのときじゃないですか?
でも、桜の時期は過ぎてたけどなあ」
ボ「では、ボクが見たのは勘違いの記憶違いと?」
8
1 ボ「で、友達ってのは姉貴の彼氏か?
その人はそのときどうしてたの?」
青「いえ、学生当時からの女友達で、一緒に
泊まることになってたホテルで待ってたそうです」
2 ボ「まあ、女友達でも彼氏でもいいけどさ、
時期にズレがあるなあ」
青「俺だって覚えてますよ。こっちで姉貴と
歩いてたときは桜の時期は過ぎてましたよ」
3 青「ボツさんもボケの気があるから
思い込みがあるんじゃないですか?」
ボ「うわわ、ボボボクがボケだから
間違ってると!?」
4 ボ「わからんことはわからん、
知ってることは知ってる、常に正直にして来たし、
嘘で人を傷つけたことはないぞ!たぶん」
カウンタードン!
小「まあまあ、判ってきた。ポイントは桜だな」
5 小「さっきも話していたんだがね、桜にも種類が
あって開花時期も違う。で、
地域によっても変わるだろ」
6 小「桜前線の北上は知られているが、
西日本が先、東日本が後とか、大阪が先で東京が後
と思いきや、そうでもない。大都市はほぼ同時期だ。
http://sakura.weathermap.jp/smt/
7 小「特に今年は雨が続いて開花が遅れた。
気象庁の発表も厳密ではなくて、どこそこでは
満開としながら、しばらく離れたところでは
五分咲き程度とバラツキがあった」
8 小「この辺りの開花も遅れて、
且つ早々に散ったかもしれないな」
ボ「お言葉ですが、同じ場所でボクは満開の桜、
青年は散った後と言っています」
9
1 小「その桜ってのは近所のあそこか? 図書館の・・・・」
ボ「うん、図書館の横の並んでるとこ」
2 ボ「その図書館前で青年が姉貴と歩いていました。
そうですね?」
青「それはそうだけど・・・・」
3 小「ボツも青年も嘘は言っていない、てことか」
ボ「ボクからするとそうは思えないんだがなあ」ジ〜
青「それは俺も同じですよ」
4 小「うん、じゃあもうちょい時期を確認しようか。
ボツが見たのはいつだ? 先月の?」
ボ「桜が咲いてたから上旬でしょう。
日にちまではなあ」
5 小「青年はどうだい?」
青「姉貴が来たのは先月の、
たしか18日の火曜日です」
6 ジョ「18日ならこの辺で桜は咲いてないですね」
小「そうだな。遅くても10日前には終わりだろう。
毎年のことだからな」
7 小「てことは・・・・」
ボ「いや〜、ちょっと待ってよ、青年と姉貴が
歩いたのを見たのは合ってるでしょうに。
見たから言えたことですよ」
8 小「ボツの勘違いじゃねえかなあ」
ジョ「そういえばボツさん、
正月に妙なことを話していましたね」
10
1 ジョ「部屋の壁が高く伸びたとか、
地べたから手が手招きしたとか・・・・」
ボ「ボクが見たのは幻覚だと!?」
2 ボ「じゃあナニかい、ボクが目撃した青年と
彼女も幻覚で、今ここにいる青年ももしかしたら
存在しないんかい! お二人も幻覚を見てんのか?」
小「落ち着けよ、記憶が前後してゴッチャに
なるなんてよくあることだよ」
3 ボ「おーし、受けて立つ! やい青年、
もしそっちの言い分が間違っていたらどうする」
青「どうするって・・・・どうも何も・・・・」
4 ボ「もしボクが間違っていたら、
君におごりましょう。お代わり付きでいいよ」
ジョ「それだけ?」
5 ボ「でまかせやハッタリではなく、
出来ることを約束する! どうだい青年!」
青「・・・・いいですよ。同じ条件にしましょう」
6 夜 店外
7・8 店内 ジョー、小藪、ボツの三人
ジョ「青年は帰宅して、いつもの面子となりました」
小「時は過ぎれど結論至らず、か」
11
1 ボ「ボクの勘違いかなあ・・・・いや、
二人が歩いたのは見たし、本人も認めてるし!」
2 ボ「あ〜モヤモヤするな〜、不愉快だ」
小「なんだか『羅生門』という
黒澤映画を思い出したよ」
3・4
小「元は芥川龍之介の短編小説だがね。
殺された武士を巡って、複数の人間の目撃証言が
食い違うんだ」
5 小「それぞれ立場も事情も違うが、
共通してるのは、追い詰められた者達は
己を守るために何でもするし偽る」
6 ボ「ボクは偽っていませんよ!」
小「わかってるよ、食い違いで思い出しただけさ」
7・8 外 小藪とボツが歩く
ボ「青年があんなに意固地だったとは
思わなかったよ。実に不愉快だネ」
小「向こうも同じこと思ってたりしてな」
12
1 ボ「ヤブさんがボクの立場だったらどうしてた?」
小「俺か・・・・あーそうですかで済ませるかな」
2 小「勘違いくらいあるさ、人間だもの、
こやぶ、だな。じゃあな」
ボ「納得いかない」ぶー
3・4 小「図書館の桜か・・・・」
前方に図書館
5・6 視線の先には桜の枝先
小「ほ〜・・・・なるほど・・・・」
7・8 店外 ー翌日
13
1・2 店内
ボ・青「え、わかったの?」
小「あそこの桜は特別なんだよ」
3・4 小「これからみんなで花見に行こうか」
ドアに立つ小藪
ボ「何言ってんの、もうとっくに時期過ぎてるよ」
5・6・7・8 桜の前、小藪達4人
小「な」
ボ「満開の桜・・・・」
14
1 枝先は暗く葉の形
ボ「・・・・じゃないね」
小「だろ」
2 小「で、少し離れたこっちの桜は・・・・」
ボ「真っ暗・・・・」
3・4 小「てなわけで、夜、下から照明に照らされた
葉桜は、白く反射して満開の桜に見えたとさ」
ジョ「でも、花は無くて葉っぱだけですよ」
5 ボ「マスター、視力は?」
ジョ「以前測ったら2.0 でしたが・・・・」
6 ジョ「ボツさんは?」
ボ「0.01 以下」
7 ジョ「え? え?」
ボ「メガネはずすとマスターがぼやけて見えるよ」
8 ジョ「でも、メガネしてたんでしょ?」
ボ「メガネしてても視力は下がる。
たぶん0. いくつかな」
15
1 ボ「・・・・そうか、ボクが見たのは
満開の葉桜だったわけネ」
小「決着だな」
2 ボ「まいった、不良品の目玉のせいだ。
青年、今夜はボク持ちネ」
青「いや、いいですよ、お互い
嘘言ってないことわかったし」
3 ボ「ボクが君に約束したろ、忘れたんか」
青「それはボツさんが言い出したことでしょ」
4 ボ「君の遠慮でボクが同情されてるようで
不愉快だネ」
青「もう理由が判ったんだし、
これで奢られたら俺がみみっちく思えて
嫌なんですよ」
5・6・7・8 言い合いのボツと青年
ジョ「また揉めてるようですね」
小「一件落着。さ、店戻ろう」
終
Peter Bernstein and the Lori Mechem Trio
- " Nobody Else But Me"
2
1・2 夜 店外
3・4・5・6 店内 カウンター内にジョー、
小藪はいつものカウンター奥の席
ジョ「今年も桜の季節は過ぎて・・・・」
小「新緑の季節だねえ」
7・8 小「それも束の間、またじんわり暑くなって
ジメジメの梅雨になり、その後はまた鬱陶しい夏だ」
ジョ「またボツさんがぼやきますね」
ボ「ちわ〜す」
3
1・2 ボ「あ〜あ、梅雨前だってのに汗だくですよ。
やっぱり欠陥品だネ、地球は。
またスノーボール頼んます」
小「すでにぼやいていたか」
3 ボ「? なんすか?」
小「いや、なんでもねえよ」
4 小「桜といえば、チェリー・ブロッサム
というカクテルがあったよな。大正時代に
横浜の有名なバーのオーナーが考えたそうだが」
5・6 小「桜で思いついたらしいんだが、
桜といえば白か桃色だよな。
白が染井吉野で桃色は八重桜か。
何種類かあるらしいがね」
ボ「まあ、白とピンクの濃淡しか思いつかないね」
7 小「ところがあのカクテルは、誰が作っても赤だ
・・・・いや、もっと赤黒い、固まりかけの血のような・・・・」
ボ「イヤな例えだネ」
8 ジョー、ボツにスノーボール出して、
ジョ「ワインレッドですかね」
小「うん、桜の実が赤いとしても
それを連想する日本人はまずいないだろう。
やっぱりさくらんぼのチェリーだよな」
4
1 ジョー、カクテルブックを見て、
ジョ「でも日本の桜が定説みたいですね」
小「権威が一旦決めると変えられないってのは
ありがちだわな」
2 小「マティーニ1つでも膨大なオリジナルが
あるってぇし、本当に日本の桜を模したものが
あってもいいと思うんだがねえ」
ジョ「お作りしましょうか」
3・4 ジョ「当店オリジナルの
チェリー・ブロッサム。白とピンクの二種類です」
5・6 ボ「おー、こっちの方がいいネ」
ジョ「最近は桜リキュールもあるから便利ですよ」
7 小「淡い桃色や白が日本の桜の魅力だよな」
ボ「じゃあこの二つをこの店の
チェリー・ブロッサムてことにしたら?」
ジョ「では、新作追加ということで」
8 ボ「あ、桜といえば、
こないだ久々に勤労青年を見かけたな」
5
1 ボ「桜が咲いていたから四月上旬かな、
夜歩いてたら彼女らしき人と一緒で」
回想 青年と彼女が歩いてくる
2 ボ「話に夢中でこっちに気づかないまま
通り過ぎてったよ」
ジョ「そういえば彼、最近来てないですね」
3・4 小「だいぶぼやていたから、
また職探しでもしてんのかな」
ボ「彼女持ちなら余裕でしょう。
もっと苦労すればいいのに」
ジョ「ボツさんは彼女持ちには鬼になりますね」
5・6 青「こんばんは〜」
ボ「お、噂の青年来た」
7・8 ジョ「いらっしゃいませ。久々ですね」
青「しばらく田舎帰ってました。
あ、ジンフィズお願いします」
ボツの右隣着席
6
1 ボ「ん? 職探しじゃなかったの?」
青「まあ、それもありますけどね」
2 ボ「それにしても、君に彼女がいたとはなあ」
青「え? なんで?」
3 ボ「いいよ、気ぃ遣わなくても。
ここの三人は生涯見込みないけど、内心はともかく
他人を祝福する余裕はあるよ」
青「? どういうことですか?」
4 青「俺、彼女なんていませんよ。
いたことないし」
ボ「は? だってこないだの夜、
一緒んとこを見たよ」
5 ボ「四月上旬だったかな、桜が咲いてる頃だよ、
図書館前を歩いてたでしょ?」
青「ん〜・・・・?」
6 ボ「別に隠さなくてもいいじゃんか。
あ、同伴なんとかとか、そういうのかな?」
青「いえ、3月下旬から4月上旬は
田舎帰ってたんですよ。人違いじゃないですか」
7 ボ「そんなはずねえって、
ねえちゃんと一緒だったろ」
青「あ〜・・・・たしかにそうだけど・・・・」
8 ボ「ほら〜、なんだよ、もったいぶるなよ」
青「いや、ねえちゃんてのは、
ほんとにねえちゃんですよ。姉貴」
7
1 青「田舎帰ってたときに満開の桜んとこを
姉貴と歩いたのはたしかだけど、
こっちではないですよ」
ボ「するってーと何かい? ボクの勘違い?」
2 小「すごいなあ。ボツは透視できるのか、
でまかせこいてるのか、どっちかだな」
ボ「ちょっと心外だなあ、
ボクは正直で人の機嫌を損ねることは
あっても嘘は言わないよ! できるだけ」 ぶぶー
3 ボ「まあわかった、ボクが目撃したのは
青年と姉貴だったわけだな。うん、納得しよう。
しかし場所と時期が合ってないな」
青「でもこっちでは
桜はとっくに散ってましたよ」
4 ボ「青年よ、それはボクの記憶違いと
強調することになるぞ」
青「ボツさんに話合わせたら、
俺が嘘をついたことになっちゃうでしょ」
5 ボ「つまり、姉貴と一緒だったのは田舎にいた
ときで、こっちではないんだな?
他の誰ともないんだな?」
青「・・・・あ〜、そうか」
6 ボ「なになになに、他にいたのか?
隠さず言ってくれよ。ボクの名誉もかかってんのよ」
青「こっちで見たってことは、
やっぱり姉貴だな・・・・」
7 ボ「んん? 田舎じゃなかったの?」イラッ
青「違うんですよ、帰ってしばらくして、
姉貴が友達とコンサート観に来るってんで、
姉貴だけうちに寄ったんですよ」
8 青「一緒に近所歩いたから、
そのときじゃないですか?
でも、桜の時期は過ぎてたけどなあ」
ボ「では、ボクが見たのは勘違いの記憶違いと?」
8
1 ボ「で、友達ってのは姉貴の彼氏か?
その人はそのときどうしてたの?」
青「いえ、学生当時からの女友達で、一緒に
泊まることになってたホテルで待ってたそうです」
2 ボ「まあ、女友達でも彼氏でもいいけどさ、
時期にズレがあるなあ」
青「俺だって覚えてますよ。こっちで姉貴と
歩いてたときは桜の時期は過ぎてましたよ」
3 青「ボツさんもボケの気があるから
思い込みがあるんじゃないですか?」
ボ「うわわ、ボボボクがボケだから
間違ってると!?」
4 ボ「わからんことはわからん、
知ってることは知ってる、常に正直にして来たし、
嘘で人を傷つけたことはないぞ!たぶん」
カウンタードン!
小「まあまあ、判ってきた。ポイントは桜だな」
5 小「さっきも話していたんだがね、桜にも種類が
あって開花時期も違う。で、
地域によっても変わるだろ」
6 小「桜前線の北上は知られているが、
西日本が先、東日本が後とか、大阪が先で東京が後
と思いきや、そうでもない。大都市はほぼ同時期だ。
7 小「特に今年は雨が続いて開花が遅れた。
気象庁の発表も厳密ではなくて、どこそこでは
満開としながら、しばらく離れたところでは
五分咲き程度とバラツキがあった」
8 小「この辺りの開花も遅れて、
且つ早々に散ったかもしれないな」
ボ「お言葉ですが、同じ場所でボクは満開の桜、
青年は散った後と言っています」
9
1 小「その桜ってのは近所のあそこか? 図書館の・・・・」
ボ「うん、図書館の横の並んでるとこ」
2 ボ「その図書館前で青年が姉貴と歩いていました。
そうですね?」
青「それはそうだけど・・・・」
3 小「ボツも青年も嘘は言っていない、てことか」
ボ「ボクからするとそうは思えないんだがなあ」ジ〜
青「それは俺も同じですよ」
4 小「うん、じゃあもうちょい時期を確認しようか。
ボツが見たのはいつだ? 先月の?」
ボ「桜が咲いてたから上旬でしょう。
日にちまではなあ」
5 小「青年はどうだい?」
青「姉貴が来たのは先月の、
たしか18日の火曜日です」
6 ジョ「18日ならこの辺で桜は咲いてないですね」
小「そうだな。遅くても10日前には終わりだろう。
毎年のことだからな」
7 小「てことは・・・・」
ボ「いや〜、ちょっと待ってよ、青年と姉貴が
歩いたのを見たのは合ってるでしょうに。
見たから言えたことですよ」
8 小「ボツの勘違いじゃねえかなあ」
ジョ「そういえばボツさん、
正月に妙なことを話していましたね」
10
1 ジョ「部屋の壁が高く伸びたとか、
地べたから手が手招きしたとか・・・・」
ボ「ボクが見たのは幻覚だと!?」
2 ボ「じゃあナニかい、ボクが目撃した青年と
彼女も幻覚で、今ここにいる青年ももしかしたら
存在しないんかい! お二人も幻覚を見てんのか?」
小「落ち着けよ、記憶が前後してゴッチャに
なるなんてよくあることだよ」
3 ボ「おーし、受けて立つ! やい青年、
もしそっちの言い分が間違っていたらどうする」
青「どうするって・・・・どうも何も・・・・」
4 ボ「もしボクが間違っていたら、
君におごりましょう。お代わり付きでいいよ」
ジョ「それだけ?」
5 ボ「でまかせやハッタリではなく、
出来ることを約束する! どうだい青年!」
青「・・・・いいですよ。同じ条件にしましょう」
6 夜 店外
7・8 店内 ジョー、小藪、ボツの三人
ジョ「青年は帰宅して、いつもの面子となりました」
小「時は過ぎれど結論至らず、か」
11
1 ボ「ボクの勘違いかなあ・・・・いや、
二人が歩いたのは見たし、本人も認めてるし!」
2 ボ「あ〜モヤモヤするな〜、不愉快だ」
小「なんだか『羅生門』という
黒澤映画を思い出したよ」
3・4
殺された武士を巡って、複数の人間の目撃証言が
食い違うんだ」
5 小「それぞれ立場も事情も違うが、
共通してるのは、追い詰められた者達は
己を守るために何でもするし偽る」
6 ボ「ボクは偽っていませんよ!」
小「わかってるよ、食い違いで思い出しただけさ」
7・8 外 小藪とボツが歩く
ボ「青年があんなに意固地だったとは
思わなかったよ。実に不愉快だネ」
小「向こうも同じこと思ってたりしてな」
12
1 ボ「ヤブさんがボクの立場だったらどうしてた?」
小「俺か・・・・あーそうですかで済ませるかな」
2 小「勘違いくらいあるさ、人間だもの、
こやぶ、だな。じゃあな」
ボ「納得いかない」ぶー
3・4 小「図書館の桜か・・・・」
前方に図書館
5・6 視線の先には桜の枝先
小「ほ〜・・・・なるほど・・・・」
7・8 店外 ー翌日
13
1・2 店内
ボ・青「え、わかったの?」
小「あそこの桜は特別なんだよ」
3・4 小「これからみんなで花見に行こうか」
ドアに立つ小藪
ボ「何言ってんの、もうとっくに時期過ぎてるよ」
5・6・7・8 桜の前、小藪達4人
小「な」
ボ「満開の桜・・・・」
14
1 枝先は暗く葉の形
ボ「・・・・じゃないね」
小「だろ」
2 小「で、少し離れたこっちの桜は・・・・」
ボ「真っ暗・・・・」
3・4 小「てなわけで、夜、下から照明に照らされた
葉桜は、白く反射して満開の桜に見えたとさ」
ジョ「でも、花は無くて葉っぱだけですよ」
5 ボ「マスター、視力は?」
ジョ「以前測ったら2.0 でしたが・・・・」
6 ジョ「ボツさんは?」
ボ「0.01 以下」
7 ジョ「え? え?」
ボ「メガネはずすとマスターがぼやけて見えるよ」
8 ジョ「でも、メガネしてたんでしょ?」
ボ「メガネしてても視力は下がる。
たぶん0. いくつかな」
15
1 ボ「・・・・そうか、ボクが見たのは
満開の葉桜だったわけネ」
小「決着だな」
2 ボ「まいった、不良品の目玉のせいだ。
青年、今夜はボク持ちネ」
青「いや、いいですよ、お互い
嘘言ってないことわかったし」
3 ボ「ボクが君に約束したろ、忘れたんか」
青「それはボツさんが言い出したことでしょ」
4 ボ「君の遠慮でボクが同情されてるようで
不愉快だネ」
青「もう理由が判ったんだし、
これで奢られたら俺がみみっちく思えて
嫌なんですよ」
5・6・7・8 言い合いのボツと青年
ジョ「また揉めてるようですね」
小「一件落着。さ、店戻ろう」
終
Peter Bernstein and the Lori Mechem Trio
- " Nobody Else But Me"
by buttonde
| 2017-05-04 21:15
| 他
|
Trackback
|
Comments(0)